最高裁判所第三小法廷 昭和59年(行ツ)65号 判決 1986年12月19日
主文
本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
理由
一 請求原因1(原告ら及び被告の地位)、2(本件契約の締結等)及び4(住民監査請求の経由)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件訴えの適否について判断する。
1 まず、本件訴えは、地方自治法二四二条の二第一項一号に基づき本件借上経費の支出命令の差止めを求めるものと解されるところ、同号に基づく差止請求について被告適格を有する者は、同号の規定に照らし、差止めの対象たる行為をなし得る権限を有する執行機関又は職員に限られるものと解されるから、本件訴えについて被告適格を有する者は、本件借上経費の支出命令の権限を有する執行機関又は職員に限られるものというべきである。
2 そこで、地方自治法一四九条二号によれば、本件借上経費の支出命令の権限は、被告が有していることが明らかであるところ、被告は、右権限は、企画部企画課長に委任されているから、被告には、右権限はないと主張するので、この点について判断するに、組織規則一〇条によれば、本件借上経費に係る支援システムの電子計算管理事業は、企画部の所管する事務とされており、予算規則四条及び別表は、予算の執行に関し、企画部の所管に属する事項についての支出命令の権限を企画部企画課長に委任しているから、結局、被告の有する本件借上経費の支出命令の権限は、企画部企画課長に委任されているものというべきである。
この点について、原告らは、本件借上経費の支出命令の権限の委任においては、受任者が特定していないと主張するが、右に述べたとおり、組織規則一〇条の所管の定め並びに予算規則四条及び別表の権限委任規定の両者により右委任の受任者は企画部企画課長であることが明らかであるから、右主張は、採用することができない。なお、予算規則四条及び別表の規定は、配当予算の範囲内に限つて支出命令の権限を企画部企画課長に委任しているところ、原告らは、本件借上費用のうち、将来の会計年度に支出されるべき分については、予算の配当がなされていないので、右委任の受任者は確定していないと主張する。しかしながら、右にいう配当とは、歳出予算の執行を統制する手段として、予算執行計画に基づいて支出負担行為及び支出命令のできる限度額を定期又は臨時に割り当てることをいうものであつて(地方自治法施行令一五〇条一項二号参照。なお、目黒区においては、予算の配当は、予算規則一七条一項により、総務部長が行うものとされている。)、予算規則の前記規定は、予算の配当によつて、はじめてその額の範囲内で歳出予算の執行としての債務負担行為及び支出命令等の行為が可能となり、配当額を超えて予算の執行をすることはできない(地方自治法二三二条の三、二三二条の四、同法施行令一五〇条一項二号、一五一条参照)ことから、支出命令の権限の委任を配当予算の範囲内に限定したにすぎないものというべきである。そして、本件借上経費に係る支援システムの電子計算管理事業が企画部の所管に属する以上、歳出予算が成立し、その配当がされて歳出予算の執行が可能な段階に至れば、直ちに企画部企画課長が本件借上経費の支出命令の権限を行使し得ることとなるとともに、右の段階に至る前にその支出命令の権限が行使されることは予算の執行上あり得ない(前記地方自治法及び同法施行令の各規定参照)から、本件借上経費について支出命令の権限を行使し得る者は、前記委任規定の下においては、将来の会計年度に支出すべき分についても、企画部企画課長以外にはないものというべきである。したがつて、原告らの前記主張も採用の限りではない。
3 以上によれば、本件借上経費の支出命令の権限は、企画部企画課長に委任されているものであり、行政事務の委任がされた場合には、委任事務の執行権限は、受任庁に帰属し、委任庁は、自らこれを執行する権限を失うものであるから、被告は、前記権限の委任により、右の支出命令の権限を失つたものというべきである。なお、被告は、地方自治法一五四条の規定に基づき、企画部企画課長に対する委任事務についての監督権の行使として、同課長のした本件借上経費の支出命令が違法又は不当であると認める場合には、その全部又は一部を取り消す権限を有するが、右の権限は、右の支出命令に関する権限そのものではなく、行政組織上認められる事後的な抑制作用としての是正権限であるにすぎないから、被告に右のような権限があることをもつて、本件訴えの被告適格を根拠づけることはできない。
4 そうすると、被告は、本件訴えについて被告適格を有しないものというべきである。
三 よつて、原告らの本件訴えは、いずれも不適法であるから却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 柳田幸三 裁判官 金子順一)